「不労所得で月10万円」という広告を信じた結果
32歳のとき、筆者は都内ワンルームマンションを1室購入した。価格は2,380万円。頭金150万円を払い、残りはフルローンを組んだ。不動産会社の営業トークでは「家賃収入が月85,000円、ローン返済が月72,000円、毎月13,000円の手残りが出ますよ」という説明だった。
結果はどうなったか。購入から3年目に入居者が退去し、次の入居者がつくまでに4か月かかった。その間のローン返済額は288,000円。原状回復費用に18万円。さらに管理費・修繕積立金は毎月15,800円かかり続けていた。「不労所得」どころか、持ち出しが年間で50万円を超えた年もあった。
この経験があるからこそ、不動産投資を副業として考えている人に対して、甘い話は書けない。本記事では現実の数字とリスクを正直に並べる。それでも「やる価値がある」と判断できる人にだけ、具体的な始め方を伝えたい。
そもそも不動産投資は法律上「副業」に該当するのか
ここを曖昧にしたまま始める人が多すぎる。結論から言えば、不動産投資は「副業禁止」の会社に勤めていても、原則として問題にならない。
その根拠は大きく2つある。
1つ目は、国税庁の所得区分において、不動産所得は「事業所得」ではなく「不動産所得」に分類される点だ。つまり税務上は「事業=副業」とは異なるカテゴリーで扱われる。
2つ目は、多くの企業の就業規則で「副業禁止」とされているのは「他社に雇用されること」や「個人事業を営むこと」であり、資産運用としての不動産所有は対象外とされるケースがほとんどだ。
ただし例外もある。公務員は国家公務員法第103条・地方公務員法第38条により、5棟10室以上の不動産賃貸は「自営」とみなされ、許可が必要になる。また、民間企業でも就業規則の文言次第ではグレーゾーンに入る場合がある。必ず自社の規定を確認してから動くべきだ。
不動産投資の種類と特徴【比較表】
一口に「不動産投資」と言っても、種類によってリスクとリターンはまったく異なる。
| 投資タイプ | 初期費用目安 | 表面利回り目安 | 空室リスク | 管理の手間 | サラリーマン向き度 |
|---|---|---|---|---|---|
| 都内ワンルーム(新築) | 2,500万〜4,000万円 | 3.5〜4.5% | 低い | 少ない | ★★★☆☆ |
| 都内ワンルーム(中古) | 1,200万〜2,500万円 | 4.5〜6.0% | やや低い | 少ない | ★★★★☆ |
| 地方一棟アパート | 3,000万〜8,000万円 | 7.0〜12.0% | 高い | 多い | ★★☆☆☆ |
| 戸建て賃貸(築古) | 300万〜800万円 | 10.0〜15.0% | 中程度 | 多い | ★★★☆☆ |
| REIT(不動産投資信託) | 1万円〜 | 3.0〜5.0% | なし | なし | ★★★★★ |
※利回りは2026年4月時点の市場相場をもとにした目安。実際の利回りは物件ごとに大きく異なる。
サラリーマンが「副業として」始めるなら、管理の手間が少ない都内中古ワンルームか、最小リスクのREITが現実的な選択肢になる。地方一棟アパートは利回りこそ魅力的だが、入居者募集・修繕対応・税務処理の工数が膨大で、本業を持ちながらの運用はかなり厳しい。
表面利回りと実質利回りのギャップを理解する
不動産投資の広告で頻出する「利回り○%」は、ほぼ例外なく表面利回りだ。実質利回りとの乖離を知らないまま購入判断をすると、確実に後悔する。
計算例を示す。
物件価格2,000万円、年間家賃収入120万円の場合
- 表面利回り:120万 ÷ 2,000万 = 6.0%
- 管理費・修繕積立金:年間19.2万円(月16,000円)
- 管理委託料:年間6万円(家賃の5%)
- 固定資産税・都市計画税:年間8万円
- 火災保険料:年間2.5万円
- 空室損失(年間1か月分想定):10万円
- 実質経費合計:45.7万円
- 実質利回り:(120万 – 45.7万) ÷ 2,000万 = 3.7%
表面6.0%が実質3.7%まで下がる。さらにローン金利(変動1.8%として年間36万円)を加味すると、手残りは年間38.3万円。月あたり約3.2万円だ。
この数字を見て「月3万円の手残りなら悪くない」と思うか、「2,000万円のリスクを負って月3万円?」と思うか。この判断が分かれるところが、不動産投資を始めるかどうかの分水嶺になる。
サラリーマン不動産投資家が直面する5つのリスク
リスク1:空室リスク
最大のリスクはこれだ。入居者がいなければ家賃収入はゼロだが、ローン返済・管理費・固定資産税は容赦なく発生し続ける。東京23区のワンルームでも空室率は平均5〜8%。地方に行けば15〜20%に跳ね上がる物件も珍しくない。
リスク2:家賃下落リスク
築年数が経過するにつれて家賃は下がる。築10年を超えると、新築時から15〜20%程度の下落が一般的だ。30年ローンを組んでいる場合、返済額は固定なのに収入は減っていくという構造的な問題がある。
リスク3:修繕費の突発的な発生
給排水管の交換、エアコンの故障、外壁塗装。築15年を超えると大規模修繕が必要になるケースが増える。一棟アパートの外壁塗装だけで300万〜500万円かかることもある。この資金を手元に確保しておかなければ、突然のキャッシュフロー悪化に耐えられない。
リスク4:金利上昇リスク
2026年現在、変動金利は1.5〜2.0%程度で推移しているが、日銀の金融政策次第では上昇する可能性がある。金利が1%上がると、2,000万円のローンで年間返済額が約20万円増加する計算になる。
リスク5:流動性リスク
株式であれば数日で現金化できるが、不動産は売却に3〜6か月かかるのが普通だ。急な資金需要に対応できない。しかも購入時より値下がりしていれば、ローン残債を下回る「オーバーローン」状態に陥り、売るに売れなくなる。
不動産投資を始める前に確認すべき3つの条件
条件1:年収500万円以上かつ勤続3年以上
金融機関の融資審査をクリアするための最低ラインがこのあたりだ。年収が低い場合は頭金の比率を上げる必要があり、初期投資額が膨らむ。
条件2:生活防衛資金として手取り6か月分以上の貯蓄
不動産投資に全資産を突っ込むのは論外だ。空室期間やトラブル対応の予備資金として、生活費の6か月分以上は不動産とは別に確保しておく必要がある。
条件3:最低5年は売却しない覚悟
不動産投資は短期で利益を出すものではない。購入時の諸費用(登録免許税、不動産取得税、仲介手数料など)だけで物件価格の7〜8%かかる。2,000万円の物件なら140万〜160万円だ。これを家賃収入で回収するだけでも3〜5年はかかる。
筆者が今から始めるならこう動く
冒頭で書いた通り、筆者は過去にワンルーム投資で苦い経験をしている。その反省を踏まえて、もし今ゼロから始めるとしたらどうするか。
まずREITで月5万円の積立投資を始める。年利回り4%を想定すると、10年で約730万円の資産になる。この運用経験を通じて不動産市場の動向や価格変動のパターンを肌感覚で理解する。
その上で、3年後に中古ワンルームを1室購入する。ただし、頭金は物件価格の20%以上を入れ、フルローンは絶対に組まない。月々の返済額が家賃収入の60%以内に収まる物件しか検討しない。
この「REIT→現物」の段階的アプローチが、サラリーマンにとって最も堅実な不動産投資の始め方だと、失敗を経た今は確信している。
不動産投資と他の副業の比較
不動産投資だけを単独で評価するのではなく、他の副業と比較することも重要だ。
月5万円の副収入を得るために必要な初期投資と労働時間を比較してみると、ブログ運営なら初期費用3万円程度で始められるし、プログラミングの受託なら初期投資はほぼゼロだ。一方で不動産投資は最低でも数百万円の頭金が必要になる。
リスクとリターンのバランス、自分の時間をどこに配分するかを冷静に天秤にかけて判断すべきだろう。
まとめ:不動産投資は副業の「選択肢の一つ」にすぎない
不動産投資は、正しい知識と十分な資金があれば、サラリーマンにとって有効な資産形成手段になり得る。しかし「誰でも簡単に不労所得」という話ではまったくない。
空室、修繕、金利上昇、流動性。これらのリスクを数字で理解し、最悪のシナリオでも生活が破綻しない計画を立てられる人だけが、不動産投資に踏み出すべきだ。
「迷っているなら、まだ買うな」。これが筆者からの率直なアドバイスになる。





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